音楽ソース評価のページです。声を大にしてお勧めしたい推薦盤、買ったけど世間の評判の評判に疑問を感じたもの、 知られざる名盤・珍盤、優秀録音盤etc.。私の偏見に満ちた独断ですが、身銭を切った者の偽らざる結論であります。 このページは随時、手軽にupdateするために簡単なページ制御にしております。ブラウザーやフォントの 大きさによってはお見苦しくなる事があるかも知れません。ご容赦を。
●モラヴェッツ/ドビュッシー・ピアノ・リサイタル[LP/フィリップス-FH14] CDから次世代のメディアに遷ろうかというご時勢ですが、トップバッターに選んだのはLPです。LPは最早過去の遺物で、いまさらこれが良いのあれが悪いのと言っても自己満足であるばかりか、却って嫌みと取られることも覚悟せねばなりません。そのリスクをあえて犯しても紹介しておきたいのがこのLPであり、シリーズです。チェコのピアニストのモラヴェッツが弾いたビュッシーのピアノ小品集からの抜粋です。このLPの特徴は何と言っても、ハイレベルカッイテングです。元の録音もLP初期に高音質で有名であったコニサー・ソサエティのものです。盤を見ると明らかに通常のカッティングとは異なります。溝の変化幅が大きすぎて33回転なのに45回転並の収録時間になっています。これはこのシリーズ(オーディオ・クリニック)すべてに言えます。近年ではTELARCのLPがこんな具合でした。チャイコフスキーの「1812年序曲」では大砲の音が内周で大きな幅となってうねっており、カートリッジのテストに最適でした。しかしながら、TELARCの場合はCD化されたものと聴き比べてあえてLPを取るという気がしませんが、モラヴェッツのビュッシーは後になって買ったCDなぞ足元にも及ばない迫力と音のソノリティです。左手が主役かと思えるほど低域の響きがよく捉えられています。ドビュッシーのピアノ曲が、リストかワグナーのトランスクリプションのように聴こえます。こんなダイナミックなドヒュッシーを他に知りません。 同じハイレベルカッティングのシリーズとして20枚出ていました。ジャケットの左にカッティングレベルのチャートと聴き所が載っているのがご愛嬌です。こんなシリーズが、なんと\1500の廉価版で出ていたのです。倍でも3倍の値段にでもなっていいから、このシリーズの復刻を切に願うところです。
●鬼太鼓座/怒濤万里[CD/JVC-VICG60201] いわずとしれた鬼太鼓座の最新CD。いろんなサイズの大太鼓と三味線、笛の合奏はそれなりに面白い。しかし、「大太鼓」=低音のイメージでこれを買った人にはもの足りなかったのではないかと思います。鬼太鼓座はLP時代からのおつきあいです。最初はデンオンの45回転のサンプラーLPでした。たまたま、その時10センチシングルでバスレフを作ったので試聴に用いました。全体で数リットルの箱のバスレフポートに手を当てると太鼓の所で、ビンヒン手に風圧を感じる。とても口径10センチのスピーカーから出ていると思えない低音でした。所が、後になってSuperWooferの付いたシステムで聴くと、期待した程「重低音の迫力」を感じられません。50〜100Hz辺りは良く出ているがそれ以下はさほど出てこないように思います。その後何枚か聴いたものの、バランスは皆同じです。むしろバチが太鼓の皮に当たる音等の細かい音がよくとれている事や、ずっとレベルが低いと思われる笛や三味線とのバランスの良さに感心しました。いくら太鼓の径が大きくても細長い棒でたたくと分割振動がメジャーになるのか?などと考えてしまいます。 このCDもその延長線上のものです。より細かい音が綺麗にとれています。評論家はバスに乗り遅れまいとするようにこぞって絶賛していますが、あいまいな表現で素人の誤解を助長しているような気がしてなりません。 小さな事ですが、このCDの装丁には疑問を感じます。限定ダイレクトカッティング版ということで「他とは違う」と言うことを表したかったのでしょうが、紙箱は開けにくい上にうまく棚に収まりません。その上こういう薄手の箱には筆箱(もはや死語か?)のように指をかける切り欠きがついているものなのに、無い。爪をかけないと開けられないのです。LP時代にも「豪華見開きジャケット」なぞという厚さが倍以上あるジャケットがありました。でも、もうパッケージで売る時代ではないでょうに。こんな事で価格が高くなる(\3360)のは願い下げです。
●驚異のコントラマリンバ[CD/SONY-32DC5027] 我が家で重低音再生と言えばこのCDです。マリンバといえば小学校生でも弾く(敲ける?)ポピュラーな楽器ですが、これは一音一音に別々の足がついた打楽器です。もはや別の楽器と考えた方がよいでしょう。最低音は32.7Hzですが、もっと低い音に感じます(ステージの共振をマイクが捉えたのか?)。CDの出だしでいきなりこの重低音で出会いますが、「地をはうような」という形容詞がぴったりの音です。うっかりボリュームを上げていると、床どころか部屋全体がグラグラっと来ます。前項のTALARCの大砲は「ズドン」「ズトン」と単発ですが、それが隙間無く連射されたかのようです。我が「城」は木造の3F(というより屋根裏)なので、低音は大地に到達する前に盛大に家を揺すぶってくれます。 高橋美智子さんは、パーカショニストという言葉を日本でもポピュラーなものにしてくれた第一人者です。マリンバの他にもモーツァルトの時代の楽器、グラスハープを復興させたクリスターナ・グラスハープ(SONY-32DG83)のCDも出されています。グラスハープというの水を張ったワイングラスの縁を擦って音を出す優雅な楽器です。最盛期には縁を擦っていては間に合わないのでグラスの方を振動させ、指をふれると音が出るという物もあったそうですが、骨に異常を来すという事でグラスハープそのものが禁止されました。 このCDの最後の曲では小鼓との競演も楽しめます。小鼓の堅田喜三久さんにはジャズのテイクファイブを和楽器で演奏するという離れ業をやってのけたCDも有りました。
●ヴァント/ブラームス/交響曲第1番[CD/BMG-09026 6889 2] レコ芸の購読を止めて久しくなります。評が嫌になりました。特に年末の「アカデミー」。あれで大賞や部門賞を与えられたものにアタリは無いと言っていいくらいです。受賞したものは買うのを避けるようにしているくらいです。曰く「Bも素晴らしいが、昨年受賞したからAに与えた」、また曰く「この地味な分野に光りを当てたいので、あえてコレを選んだ」。金を払って読んでいる読者をなんと思ってるんだ。その年発売になったもので最も優秀なものを選出するのが筋だろうが。ン十年も前の、一般人は聴きたい曲もなかなか聴けなかった時代の感覚でモノを言うのは止めてくれ。そう思いませんか。しかし、このCDは賞を取ってるにもかからわず買いました。録音賞だったからたかも(そんなに凄い録音とも思いませんが)。 ヴァントはいまや「ドイツの伝統を引き継ぐ最後の巨匠」とかで、特にブルックナーが好評です。でもブルックナー・ファン以外が聴いてもなかなか彼の本質が掴めません。それがこのCDを聴くと一目(一聴)瞭然です。誰かが「ティンパニ協奏曲」とうまいことをいっています。確かに、あの有名な出だしのティンパニが、一音一音はっきりと、他の楽器に負けないような音量に聞こえます。スコアを開いて見ると、他の楽器には総てスラーがかかっていますし、ティンパニに特にmf等小さめに鳴らすような指示は有りません。ここは分厚い厳の響きに隠れて控えめに鳴らすのが普通ですが、こっちのほうが楽譜どおりなのかもしれません。そう彼はザッハリッヒカイトなのです。伝統なんかホッポリだして楽譜に忠実に演奏しようとする指揮者なのです。あのトスカニーニでさえ、こここまではっきりとティンパニを打たせていません。それでいて、曲が終了した時に深い充実感と感銘を覚えます。その意味で彼は確かに巨匠です。高齢から考えて日本で生を聴くのは無理でしょうが、このCDは彼の演奏芸術を理解する上での一つの目安になれば幸いです。(この演奏1996年の新しいほうの版です。)
●チェリビダッケ/ベートゥヴェン/交響曲第7番[CD/東芝EMI-TOCE55054] ヴァントを出してチェリビダッケを出さないわけには行きません。チェリについては学生時代に見た映画の強烈な思い出があります。爆撃で廃墟と化したフィルハーモニーザールでベルリン・フィルを指揮して「エグモント序曲」を振っている映像です。激しく振られるタクトに引きずられるような劇的な演奏でした。戦後暫く、フルトヴェングラーが禁を解かれるまではチェリがベルリン・フィルを振っていたようです。そのころの録音を聴くとフルトヴェングラーの別テイクと言われも通ってしまいそうな程似通った演奏でした。彼がそうさせたのか、それとも戦前・戦中ずっとフルベンの薫陶を受けてきい、メンバーに染みついた演奏スタイルであったのかは定かではありません。 ベートゥヴェンの交響曲の中でも第7番は最も好きでない曲です。何とはなしに俗っぽいところが鼻につくのです。これは久々にその第7番を一気に聴き通させてくれた演奏です。チェリの演奏はテンポが遅いので有名です。この演奏も例に漏れず、こんなに遅い7番は聴いたことがありません。それでいて緊張感が最後まで途切れることがないのです。テンポを落としてじっくり聴かせるのは、歌舞伎の「見得」のようなものでカッコいいのですが、無闇にやるとダレてきます。息は「吸って」「吐いて」しないと、「吐いて」「吐いて」ばかりでは保ちません。フルベンはこの吸って吐いてのテンポの緩急をつける天才でした。ところがチェリの演奏は最初から最後まで遅いのです。それでいて集中を保ち、「見得」を切り続けてくれるのです。 チェリはポリグラムのシュトゥウットガルト放送交響楽団より東芝EMIのミュンヘン・フィルの方がよく特徴が出ていると思います。それだけに東芝もEMIもブラームスの交響曲を人気のないドイツレクイエムと抱き合わせ販売するような事はやめて欲しいですね。