編曲で聴く名曲集 その2 「鍵盤上に展開するオーケストラの世界」

    


ブラームス

交響曲第1番[LP パバーヌ PF28-0002]交響曲第4[LP パバーヌ PF28-0003]/デュオ・クロムランク

 ブラームスの編曲版はリストによるベートーヴェン交響曲のトランスクリプションと違って、オーケストラ曲をピアノの為に編曲するという難題への挑戦ではありません。ブラームスは管弦楽曲を作る際に、まずピアノ連弾用で楽譜ほ完成させその後にオーケストレーションしていたようです。ブラームスの作曲の原点だったのです。内輪の集まりではクララ・シューマンとよく連弾していたとのこと、彼女との精神心的不倫と関係があるのかも知れませんね。
 デュオ・クロムランクはパットリック・クロムランクと桑田妙子の夫妻が結成していました。資料によるとブラームスのピアノ連弾(1台のピアノを2人で弾く)のための作品全曲を録音していますが、総てがCD化されたのかは不明です。残念ながら10年ほど前に2人とも亡くなりました。ご主人が自殺した後、夫人が後追い心中したと記憶しています。

交響曲第2番[ポリグラム輸入盤 IDC6602]交響曲第3番[ポリグラム輸入盤 IDC6603]
  トーヴ・ルンスコウ&ロドルフェ・ランビアス

 これもご夫婦によるデュオです。彼らもブラームスの交響曲4曲の連弾を録音しています。第2番は連弾ですが、第3番は2台のピアノ版です。どちらもブラームス自身の手になる楽譜です。ピアノ版は作曲の過程であるとともに、大事な収入源でもありました。当時は録音という手段が無かったため(ブラームスの弾くハンガリア舞曲の蝋管録音が、か細い音で残されてはいますが)、一般家庭ではピアノ譜を購入して弾いてもらうしか「再生」する手段がありませんでした。もっとも楽譜がそれほど沢山売れたとは考えられませんが。
  今わざわざピアノ版を聴くメリットは、オーケストラ版では掴みにくい、「曲の骨組」が見えてくることでしょう。ブラームスの重厚な交響曲も、大事な音だけを繋いで描けばこんな音楽になのかという事が、スコアを読めなくとも理解できます。
  カップリングは2番が「大学祝典序曲」の連弾版、3番が「ハイドンの主題による変奏曲」の2台のピアノ版です。

ブラームス交響曲第1番/ジルケ=トーラ・マティース&クリスティアン・ケーン[ナクソス 8.554119]
 現在最も入手し易いのがナクソスの「ブラームス4手のためのピアノ作品全集」シリーズでしょう。実売800〜900円の廉価盤でバラ売りされています。これはその第6集です。1番のウリであるティンパニの助奏が、単なるウケ狙いではなく、管や弦の低音で刻まれるリズムをオーケストラのバランスを崩すことなく強調するのが目的であったことがよく判ります。


  この外ブラームスではビアノ協奏曲第1番も連弾用にまず作曲され、その後交響曲に「編曲」され、最後にピアノ協奏曲になりした。「ピアノ付き交響曲」と言われる由縁でありましょう。さらに何とドイツレクイエムの連弾版さえ存在しています。イロモノ好きの私めも、さすがにここまでは食指が延びません。



ベートーヴェン

交響曲全集/シンプリアン・カツァリス[ワーナー WPCS10377〜10383]


  リストがベートーヴェンの交響曲全曲をピアノに編曲していたを知り、他の交響曲はどんなだろうと思っておりましたが、まさか全曲演奏の企画が実行に移されるとは考えても見ませんでした。今では、その全曲を1000円の廉価版で聴くことができます。
  ブラームスの場合とは異なり、リストが自身の演奏会場で弾くために編曲したものです。素人が家庭で弾いて楽しめるものではなく、超絶的技巧の嵐です。オーケストラ演奏のダイナミズムが見事に再現されています。 カツァリスはグールドのようにテンポを遅く取ることもなく、素晴らしい技巧で弾き切っています。惜しむらくは譜面の正確な再生に留まっており、もの足りなさが残ります。オーケストラでも、生演奏では指揮者は微妙にテンポを変えて聴衆のハートを掴みにかかります。おそらくリストも演奏する時には、譜面には残していない緩急をつけて聴衆を引きつけていたでしょう。残念ながらカツァリスの演奏にはそれがありません。

  この外にも編曲で聴く名曲集 その1「ベートーヴェンの交響曲」にグールドの「運命」やコンタルスキー兄弟の「合唱」があります。

交響曲第5番「運命」/エルンスト-エーリッヒ・ステンデル[Ornament Records 11457]
オルガンで聴く「運命」です。演奏している ステンデル(Ernst-Erich Stender)が自身で編曲しています。オルガンだと固有の音色を持った管を使うことによってピアノではできない変化を付けることができます。カップリングは交響曲第1番です。編曲の出来はこちらのほうが良さそうです。



ピアノ協奏曲第3番第1楽章/マルク-アンドレ・アムラン[hyperion CDA66765]
昔は外盤屋の名札によく「ハメリン」と書かれていました。フランス人はHが嫌い(本当は大好きなのに?)でヘンリーがアンリ、ヘクトル・ベルリオーズはエクトル・ベルリオーズになってしまいます。東京の某真空管アンプの大家は「筋肉系」がお嫌いで、演奏会を途中退場されたとか。生に接することができなかった私共にはもったいない話です。
  アルカンの編曲ですが、なんとピアノ協奏曲をたった一人で演奏してしまっています。さすがにオケが盛り上がる部分はモノ足りませんが、ピアノとオケのパートを一緒に弾いてしまうのは驚異です。このCDにはこの他にも、アルカンやブゾーニのオリジナル難曲がカップリングされており、超絶技巧家アムランの面目躍如といったところです。



チャイコフスキー

交響曲第6番「悲愴」/デュオ・クロムランク[Claves CD50-8805]
  チャイコフスキーもブラームスと同様、ピアノ連弾で曲を完成した後にオーケストレーションするという手法をとっていたようで、これも「直筆」の楽譜です。オーケストレーションの段階で可成りの変更があったのでしょう、オケ版と少し印象の異なる部分があります。二人が一体となったかのようなデュオ・クロムランクの連弾は、気品があり、デリカシー に富んだ素晴らしい演奏です。彼らの残した録音のなかでも最高級に属するのではないでしょうか。東京の大家も耳を傾けられるべきCDです。 カップリングは珍しい50のロシア民謡です。 



バレエ組曲「くるみ割人形」/マネタ・アルゲリッヒ&ニコラス・エコノム[ポリグラム POCG9788]
  この分野では珍しい非常にメジャーなピアニスト、マネタ・アルゲリッヒが弾いています。相棒のエコノムがオーケストラ版を2台のビアノ版に編曲しています。エコノムは作曲も指揮もすると紹介されていますが、ジャケットで見るとアルゲリッヒよりずっと若そうです。聴く前はアルケリッヒの「助奏」に回っていのるのかなと思っていましたが、どうしてどうして丁々発止の演奏で見事な競演になっております。カップリングはラフマニノフのシンフォニック・ダンス。こちらはラフマニノフ自身が2台のピアノ版を書いています。



ドボルザーク

交響曲第9番「新世界」/デュオ・クロムランク[キング KICC102]
   ドボルザークがオーケストラ版を完成させた後に連弾に編曲したものと推定されています。一音一音の慈しむかのような、響きを大切にしたデュオ・クロムランクの素晴らしい演奏です。特に第2楽章はそれだけで、今流行の「癒し系」の曲として独立して弾かれても良さそうな位です。こんな美しい連弾を数多く残したデュオ・クロムランクですが、現在国内盤では1枚も残されていません。残念なことです。カップリングはスメタナの「モルダウ」の連弾版です。



ベルリオーズ

「交響曲イタリアのハロルド」/ブラノ・パスキエ(Vla)ジャン-フランソワ・エッセール(Pf)[harmonia mundi HMA1901246]
 これはピアノ連弾ではありませんが、ヴィオラ付き交響曲とも言える「イタリアのハロルド」をヴィオラとピアノでやっているので取り上げました。元々は「幻想交響曲」に感激したパガニーニがベルリオーズに、所有しているストラディヴァリウス製のヴィオラの為にヴィエラ協奏曲を依頼したが、ヴィエラのパートが気に入らず諦めてしまった。同様に「幻想交響曲」に感激したリストは、ベルリオーズはピアノに編曲することを申し出た。ベルリオーズはリストが編曲した「幻想交響曲」が気に入らず渋ったが、600フラン支払われることになって許諾したというものです。ベルリオーズはヴィオラのパートを出来るだけオリジナル通りに残すことを主張したので、このような編成になりました。
  名手パスキエが加わったことでピアノパートのけばけばしさが薄れ、もう一つの「イタリアのハロルド」といっても良さそうな出来です。カップリングはシューマンの「おとぎの絵本」。これはヴィオラとピアノのためのオリジナル曲です。  



ラベルとムソルグスキー

ラベル「ボレロ」/ルース・ラレード&ジャック・ルヴィエ[DENON 33C37-7907]
  ルース・ラレードとジャック・ルヴィエという、それぞれソリストととしても活躍している2人のピアニストの顔合わせです。編曲はラベル自身がしています。独奏用と2台のピアノ用が存在しています。こんなポピュラーな曲のピアノ版が何故今まで録音されなかったのか不思議です。オケ版では曲全体にクレシェンドがかかっており、最高調に達した後、崩れるように解き放たれます。ピアノ版も弱音からはじまり、だんだんと緊張が高まって行きます。クライマックスでもピアノが2台あるので、その効果がよく表現されています。カップリングはマ・メーメ・ロワ、ハバネラ、ラ・ヴァルス等魅力的な選曲です。



ラベル「ボレロ」/ムソルグスキー「展覧会の絵」/松居直美[SONY 32DC1015]
  今度はオルガンによる演奏です。サントリー・ホールのパイプオルガンが使われています。編曲はオリジナルです。オルガンは音色の変化ではピアノに勝りますが、音の立ち上がりの遅さはいかんともし難いものです。これを補うために、パーカッション(吉原すみれ、山口恭範)が導入され、ピリリとした味付けがなされています。カップリングの展覧会の絵では、2人のパッカーション奏者による10種類の打楽器が加わっております。さらに重量感を増すためにほぼ全曲にわたって二重〜五重の多重録音がなされています。多重録音でもS/Nが悪くならないデジタル録音の効用です。壮大な音空間の世界は、オーケストラとも違う別次元の新体験でした。



ムソルグスキー「展覧会の絵」/アンソニー&ジョセフ・パラトーリ[SONY 32DC812]
  演奏しているパラトーリ兄弟とレジナルド・アッシェによる2台のピアノの為の編曲です。この曲はラベルのオーケストラ編曲の成功が示しているように、編曲による演奏効果を出しやすい性質を持っています。以前 リコダー、ヴィオローネ、ビオラ・ダ・ガンバといった古楽器による展覧会の絵も紹介しました(同演奏グループ「音楽三昧」の手になるボレロもあります)。ピアノを2台にすることによって、ピアノだけで華麗なオケ版に迫る演奏効果を挙げています。特にキエフの大門は聴き物です。カップリングは、パガニーニの「24の奇想曲」の24番をもとにした「2台のピアノのためのバガニーニの主題による変奏曲です。こちらはルトワフスキーのオリジナルです。 



ストラヴィンスキー

「春の祭典」/ファジル・サイ[ワーナー WPCS10570]
   ピアノ4手版は作曲者自身によってオケ版の作曲過程で作られ、ストラヴィンスキーとラベルの演奏で公開されました。サイは2手版(レイェッチキスの編曲)ではなくて、多重録音によって1人で4手版を演奏しています。更にオケ版のスコアから、ピアノ版で省略されている部分を付け加え、実際には最高10手のテクスチュアを作り出している部分があります。
  春の祭典の激しいタッチを再現するために必要であったのかオンマイク気味の録音です。そのせいか、デュオ・クロムランクの録音とは正反対の乾いたタッチのピアノ音になっています。



「火の鳥」/松居直美[SONY 30DC5115]
  ラベル「ボレロ」と同じくサントリー・ホールのパイプオルガンが使われています。また演奏に変化を付けるため、今度はハープ(篠崎史子)が効果的に使われています。オルガン特有の持続音があるためか少し遅めのテンポですが、ストップを駆使して非常に多彩な音色の曲に仕上がっています。カップリングはサンサーンスの動物の謝肉祭です。



ホルスト

「惑星」/レン・ヴォースター&ロバート・チェンバレイン[ナクソス 8.554369]
  ホルスト自身の編曲による2台のピアノの為の惑星です。イロモノは何度も繰り返して聴く物ではないので、廉価版のナクソスのカタログにあると助かります。オケ版の聴き所「火星」より、「土星」や「天王星」のような”外惑星”の方が面白く聴けます。



「惑星」/松居直美[SONY SRCR9313]
  オルガン版はまたしても松居直美プロジェクトです。ボレロや火の鳥より更に派手なホルストの惑星では、諸井誠が編曲を担当し、ボレロで競演していた吉原すみれと山口恭範が、マリンバ、チェレスタ、銅鑼とあらゆるパーカッションを駆使して演奏効果を上げています。



「惑星」/海上自衛隊東京音楽隊[ユニバーサル UCCS1018]
  最後に、おまけとしてブラスバンドの「惑星」をご紹介します。ブラスバンドといってもティンパニ、ピアノ、ハープはてはオルガンにコーラスまで入っており、限りなくシンフォニツクなブラスバンドです。カップリングも「火の鳥」とバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」と魅力的です。先月(2003.4)に発売されたもので入手も容易だと思います。


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