ホロヴィッツ1966年カーネギー・ホール・コンサート
[CD/SONY-SRCR2235/6 LP/SONY-36AC 734/5]
   ホロヴィッツの録音はモノラルの頃のものでも、ピアノの響きがよく捉えられていました。LPを聞き始めた頃から、彼のピアノの音だけは聞き分けられました。特に凝った録音の仕方だったという話も聞かないので、「原音」がよほど凄かったのでしょう。残念ながら最晩年に来日した時は輝きが失われて「骨」だけになっていました。それでも、充分に「聴ける」演奏でありました。本当に全盛時に来て欲しかった演奏家でした。
  日本の評論家は「ヴィルトオーゾ」というと、「技術だけで精神面の深さに欠ける」とか言ってけなす事が多いのですが、ホロヴィッツだけは不思議にそんな悪評が立ちませんでした。自分の演奏に自信を持てなくて、壮年の10数年間を引退同様に過ごしたという事が悪口を言い難くしているのかもしれません。 このアルバムは、その引退からカムバックした1965年の次の年のコンサートの模様を収録したライブものです。
  ハイドンのピアノソナタやショパン等が入っていますが、私が最も好きなのはモーツァルトのピアノソナタK331です。第3楽章は誰でも知っている超有名なあのトルコ行進曲です。普通、軽快なテンポでコロコロ転がるように弾かれますが、ホロヴィッツはテンポを落として弾いています。第3楽章では更に落とし、一音一音を深々としたタッチでじっくりと綴って行きます。グールドもよくテンポを落として演奏しますが、音そのものが軽いので凄いという印象はありません。ホロヴィッツのあの太いよく響く音で弾かれると否が応でも演奏に自分が引き込まれ、飲み込まれていくのが分かります。そこは、もうモーツァルトは存在せず、ホロヴィッツだけが存在する世界です。純粋なモーツァルトファンには受け入れられない演奏かも知れませんが、ホロヴィッツの巨匠的な面を代表する演奏です。
  

「ボレロ」 大植英次/ミネソタ管弦楽団
[CD/ IMS IDC6823 ]
  単に低域が豊かとか、張りがあるかあるとか言うのではなくて、中域の透明で解像度感のある音がそのまま下の方まで続いています。HDCDと言うのは、その機能の無いCDPで聴いても御利益があるようですが、それが効いているのか、元々の録音が凄く良いのか、HDCD方式のDACではないので判りません。下に延びていると言っても「重低音」がぶんぶんうなる感じでは更々ありません。生のオケの低域というは、軽くて、録音で聴くような「迫力のある重低音」は入っていません。その生の音が良く出ています。
  演奏が、また素晴らしい。コル・ブルニヨン序曲、前奏曲やボレロといったポピュラー曲集ですが、どの曲も初めて聴く曲のような新鮮な感動を覚えます。奇抜な演出があるという訳でもない、非常にノーマルな演奏なのですが、次のフレーズをどんな風に料理をしてくるか、期待・興味が途切れずに最後まで聴いてしまいます。このコンビのCDは7枚目ですが、7枚総てにこの演奏と録音の水準が保たれています。

  ミネソタは卵だけが売り物ではなかった。

 ベートーヴェン/交響曲第8番&ブラームス/交響曲第2番
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン管弦楽団

[CD/ aura AUR165-2 ]
  戦前、4大指揮者といわれる時代がありました。このトスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラー、メンゲルベルグに匹敵する実力者と言われたのがハンス・クナッパーツブッシュです。残念なことに有名な録音嫌いで、ステレオLP時代の1965年まで生きていたにも拘わらず、録音の数は多くありません。かのカルショーのリング全曲録音もクナッパーツブッシュが蹴ったためにショルティの指揮になったという事です。実現していれば、いまでも文句無しにリングのイチオシ録音になっていた事でしょう。
  「クナ」のベートーヴェンの8番には北ドイツ放送交響楽団(1960)やバイエルン国立管弦楽団(1959)との録音があり、前者は特に有名な演奏です。このミュンヘンフィルとの演奏も、北ドイツ放送交響楽団と同じような傾向の極めて個性的な演奏です。ベートーヴェンの中では軽快なこの交響曲を、異常に遅いテンポと強烈なアクセントで、「大」交響曲風に演奏しています。フルトヴェングラーが小刻みにテンポを動かして盛り上げていくのとは正反対の行き方ですが、初めは反発を感じながらもいつしか術中に填められてしまいます。ブラームスの2番でも、ベート−ヴェン程ではありませんが遅いテンポから、却って凄まじい迫力を生み出して行きます。
  1956年のモノラルのライブ録音ですが、2曲ともスタジオ並の良い音で「クナ」の怪演を楽しめます。輸入盤でお値段の方も国内盤の半額程度ですから、見つけたらついでに買っておいて損のないCDでしょう。

 KLASSICS/マル・ウォルドロン
[CD/ 徳間ジャパン TKCB71621 ]
  ジャズプレイヤーがクラシック曲に取り組んだアルバムは枚挙に暇がありません。MJQのロン・カーターやキース・ジャレットのバッハ物をはじめとして、マイルス・ディヴィスでさえスケッチ・オヴ・スペインでクラシックを取り上げています。最近ではジャック・ルーシェがラベルのボレロやサティをジャズで弾いています。
  マル1〜4のアルバムやレフト・アローンで有名なマル・ウォルドロンも、そのお仲間に・・・・。と思いましたが、少し趣向が違いました。ブラームス、ショパン、グリーク、バルトークの曲と自作の間奏曲が交互に入っています。ショパンの第4番と20番の前奏曲ではそのメロディが最初に出てきて、「この曲を料理」するなという事が分かります。しかし、ブラームスの交響曲第3番と銘打ったプレイでは、どこにも原曲のフレーズが現れてきません。映画「ブラームスはお好き」のテーマに選ばれた交響曲のイメージをマルが表現しているのではないかと思われます。その他の曲の料理法も、一度メロディをさらっと流した後はテンポががらりと変わって原曲のイメージはどんどん薄れていきます。ではタイトルだけ頂いたジャズのアルバムかというと、そうも聞こえません。ジャズのノリは強くありませんが、フレーズの展開には飽きさせない魅力があります。ジャズメンからの新しいクラシックのアプローチではないでしょうか。
  編成はマルのピアノに香取良彦のヴァイヴ、中村健吾のベースとドラム抜きの変則的なトリオです。この編成も新しい試みに効果的であったように思います。録音は、非常に優秀。

 ブラームス/交響曲第1番
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団

[CD/ キャニオン PCCL00498 ]
  今、ブラームスを最もブラームスらしく振ってくれそうな指揮者として真っ先に思い浮かぶのが朝比奈隆。泰然自若という言葉がこれ程ぴったりする演奏はありません。あの冒頭のティンパニが「えっ、こんなバランスでいいの」と思うくらいホール一杯に鳴り渡るのに続いて、重々しく分厚い響きが耳を覆います。後は音の流れに身を任すだけ。普通より遅めテンポが終始保ち続けられますが、最後まで決してだれることはありません。この演奏は新日本フィルとのブラームス交響曲全集を録音した直後に、朝比奈の「もう一度やり直したい」という希望で録音されたそうです。まさに乾坤一擲、彼のベスト録音の一つでしょう。
  昔から無骨で愛想のない演奏スタイルでしたが、それがいま流行のブルックナーに合うのでしょう、熱狂的なファン層が存在すると聞きます。また大フィルもデッドで響きの悪いフェスティバルホールでこんなにいい音を出すのですから、巧くなりました。かっての大フィルは、元気はいいけれどしょっちゅう音を外しておりました。定演で「運命」なぞ聴いていると第3楽章あたりから胃が痛くなります。切れ目無くなだれ込む第4楽章の冒頭の聴かせ所では必ずボーンが・・・・・。 今、朝比奈のファンは「これが最期の」と思って聞きに行くそうですが、あの頃は大フィルの方が先に逝きそうでした。
  朝比奈/大フィルのブラ全、ブル全、ベト全、チャイ4〜6が\1500のシリーズで再販されています。90年代の録音で総てHDCDです。

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