●ケニー・ドリュー・バイ・リクエスト T & U
[CD/ビクター T/BVCJ2012or37196 U/BVCJ2013or37197]
ジャスのCDが続いてしまいました。今月はアラカルトではなくて2品です。この2枚のCDはジャケットの絵に惹かれて買いました。最初に目についたのは右側のUのほう。リラックスした女性のデッサンに水彩で簡単に色づけしたスケッチですが、「リストラ」「デフレ」と閉塞感の続く毎日、ふっと別空間へ引き込まれるものを感じました。ケニー・ドリューはダーク・ビューティくらいしか聴いていませんが、「たまにゃこんな買い方もいいだろう」と決めました。ライナーを読んでみますとTとUは連続したテイクのようです。Tを探しましたが売り場に同じ紙ジャケのものはなく、発売の古いプラケースのものを買いました。 中身は、ケニー・ドリューが、ファン投票で選ばれたスタンダード曲の上位20曲をアレンジして演奏するというもので、Tは普通のピアノトリオですが、Uではストリングスや管が絡んだ編曲になっていて、曲も演奏もなかなかお洒落なものになっています。 録音も1985年と新しく、定位も自然で特定の帯域を強調しているようなところはありません。ところが私が変な買い方をしたため、面白いことに気が付きました。UはTに比べて音のレベルが6dB程大きい上、よりオンマイクの録音に聞こえます。ベースはビンビン鳴り、ピアノの低域がエネルギッシュで、全体に音が前へ出てきます。同じシリーズでトーンポリシーを変えるはずはありません。どうやら紙ジャケでの再発時にリミックスで音造りが変えられたようです。TはUより間接音成分が多く、ムーディな演奏を楽しめます。Uはブルーノートのルディ・ヴァン・ゲルダーサウンドのような、聞き手に音を叩きつけてくるような音で、迫力があります。パッと聴くとUの方が「優秀録音」に聞こえますが、音のレベルを合わせて良く聴き比べるとTも悪くありません。ドライなマティニか、スイートなマンハッタンか、お好みに合わせてどうぞという所です。
●元祖!!冗談音楽/スパイク・ジョーンズ〜クラシック編&ポピューラー編
[CD/クラシック編/ビクター BVCF 37030 ポピューラー編/ビクター BVCF 37031]
クラシック音楽のパロディで最も有名なのはホフヌング音楽祭ですが、このスパイク・ジョーンズはより直裁で、抱腹絶倒させてくれること請け合いです。落語にたとえれば、じっくり聞かせる「江戸人情噺」ではなくて「関西落語」、それも故桂枝雀の芸に代表されるような「笑い続けさせずにおくものか」というサービス精神てんこ盛りといったところです。 クラシック編冒頭の「ウィリアム・テル序曲」は、全楽器の咆吼に犬や鳥の声まで入る「嵐」に始まり、「うがい」で奏でられる「静寂」、そして有名な「スイス軍の行進曲」はなんと競馬の実況中継に置き換えられるという凄まじさ。続く「ハンガリー狂詩曲」では二人のカップルが愛の乾杯を繰り返し、最後には二人とも酔いつぶれてしまうとい趣向。「道化師」、「愛の夢」、「美しき青きドナウ」、「くるみ割人形」等も超絶新解釈。「カルメン」ではホセとカルメンが風船ガムを口にハネムーンに出発という奇怪さ。 ポピュラー編でも「黒い瞳」、「テネシー・ワルツ」、「奥様お手をどうぞ」といったポピュラー名曲が、スパイク・ジョーンズとシティスリッカーズの手によって奇想天外な「珍曲・迷曲」へとアレンジされています。 ちなみに下のジャケットはLPの「クラシック編」のもので、SPIKE JONES IS MURDERING THE CLASSIC! と銘打っています。こちら方が「趣」が有ると思うのですが、小さなCDのジャケットでは見難いと判断されてしまったのでしょう。
●演歌の大御所、ジャズを唄う/八代亜紀と素敵な紳士の音楽会
[CD/コロンビア COCA14795 ]
釣りで言うところの「外道」です。しかし、外道でも大物も大物、超特大級が釣れました。歳を取ると声楽が好きになっていくとは、よく言われている事です。私も例に漏れず、人の声が恋しくなる歳頃になってきました。「魔笛−夜の女王のアリア」でスリルを味わうのも格別ですが、演歌の「こぶし」の生理的な心地よさも判るようになってきました。もっとも、あのアナクロニズムの歌詞はいただけません。PCM放送には一日に2回、各一時間のフリータイムがあって、契約していない演歌のチャンネルも聴くことができます。そこで全く知らない歌を、歌詞を聴かずに声を音として聴いていると、生理的な快感があり、非常にリラックスできるということを発見しました。「こぶし効果」です。 閑話休題。かっては美空ひばりもジャズを唄っていました。本当に上手い歌手は、ジャンルを越えて力を発揮できるものなのですね。八代亜紀はCDの冒頭で語っているように、実際にクラブ歌手としてジャズも唄っていました。「Cry me a river 」や「 You'd be so nice to come home to」のポピュラーナンバーもなかなかのものですが、本当に凄いのは「なみだ唄」や「舟唄」をジャズにして唄っていることです。自分の持ち歌を自分でカバーしたようなものですが、他の歌手には絶対に真似できないことでしょう。