「富嶽」本体の差動化/差動アンプの音  

2000.6.19
2000.7.15 revision1
2000.7.21 revision2
2000.10.1 revision3
  「アダプター」をつかった「富嶽」の差動化実験がうまくいったので、本体に組み込みました。「実験」では出力段だけでしたが、位相反転段も差動化しました。「実験」では出力段の音への影響が非常に大きく、「差動の音」はこれで決まるような書き方をしました。しかし位相反転段の定電流回路による差動化も、変化の方向が異なりますが音に重要な影響がある事が分かりました。

出力段の差動化



  左は「富嶽」のハラワタです。出力段の差動化ユニットは、唯一空いていた場所、左上のアウトブットトランスF2021の間に入れました。出力段の差動回路は「実験」に使ったものと同じなので省略します。抵抗を沢山つけた平ラグ板しか見えませんが、この下に「実験」と同じ放熱板につけたD970を、アウトプットトランスを止めるネジでシャーシに固定しています。今回の工夫は、差動/非差動の切り替えと共に、差動時の電流量を外から3段階に切り替えられるようにして、いろいろな球への適応を図った事です。右図の上に見えるトグルスイッチがそれです。抵抗の切り替えには中点付きのトグルスイッチを使い、中点で最も大きな抵抗(最も少ないカソード電流)がつながり、他の2つの抵抗はそれとパラって丁度良い抵抗値になるものを選んでいます。スイッチはスピーカー端子の位置を左右にずらして、なんとか押し込みました。
  カソード電流は、125mA(「実験でも使った845等のプレート損失が充分大きな球用)、78mA(300B、KT88、EL34等のプレート損失30W程度で使う、通常のオーディオ球用)、38mA(プレート損失10W以下の、小型球や古典球用)の3段階です。

  音の変化で興味深かったのは245です。「富嶽」ではA2級ppとして実に8.4Wも絞り出していました。差動化によって3.5W(カソード電流38mA)になりましたが、シングルで鳴らしていた時の古典球らしい「典雅」な響きが蘇ってきました。

位相反転段の差動化

  「富嶽」の位相反転はムラードタイプで、6.6Kと38Kをパラにして4.9Kの共通抵抗に21mAの電流を流しています。この抵抗で一応差動にはなっていますが、ここはキッチリと定電流回路を入れたいところです。しかし、電流量が多いので、これまでのように定電流ダイオードで簡単に差動化という訳には行きません。しかも、前段は特にタイトに部品が混み合っていいるのでできるだけ簡単な回路で済ませたいところです。



  可変圧定電圧3端子のLM317はAJUST端子が1.25Vを保つように制御するので、アースとの間に60Ω入れるこのような回路で定電流になります。外付け部品はたった1本の抵抗で済みます。写真は左チャンネル分です。位相反転段のグリッド接地コンデンサーとNF切り替えSWの間に収めました。LM317Lの頭だけが辛うじて見えます。右チャンネルは部品の間に埋もれて上からは見えません。

  ここで困った事が起きました。LM317は耐圧が40Vしかないので、5.6Kの抵抗を入れて定常状態では10Vしかかからないうにしてあります。ところがSWオン直後、電流が僅かしか流れない時には5.6Kの抵抗にる電圧降下が少なくて、最高80V近い電圧がかかります。1秒程で40V以下になりますが、半導体だけに壊れる可能性があります。壊れてショートしても5.6Kがカソード抵抗として働くので、アンプの動作に大きな支障はありませんが、差動としての動作が後退します。
  壊れてから考えようと思っていましたが、幸いにして2ヶ月近く毎日点火しているにも拘わらず、LM317は健在です。耐圧以上の電圧がかかると絶縁が低下し、電流が流れて破壊に至る訳ですが、その電流が数mAという半導体にとっては屁みたいな量しか流れない場合には保つものなのでしょうか。

  そうこうする内に位相反転段の差動化では、別の問題が生じていることに気が付き出しました。

差動アンプの音

  [Round1] 位相反転段の差動化で「石」のテイストが出てきてしまった

  最近、6C33使ったOTLアンプを聴き比べる機会がありました。一台は「富嶽の仲間達」の6C33/6336BコンパチOTL、もう一台はNIFTYのFAVやFJAZZでおなじみのBJMさんの金田式6C33DCアンプです。出力段は同じですが、前段は片や差動化以前の「富嶽」の前段からカソフォロを省略したモノ、片や直結2段差動です。6C33/6336Bコンパチでは音に躍動感があって聴感上Dレンジが広く聞こえます。金田式の方はより滑らかな音で緻密さを感じますが、躍動感は薄れます。「石」アンプの味付けを感じました。
  金田式の前段も真空管式なのですが、差動の折り返しに「石」を使っています。金田氏は音に影響がないと言って居られますが、「純」真空管式に比べると差が出てくるのではないかと思います。

  そして、「富嶽」の位相反転段に定電流回路を入れた事による音の変化の方向は、この金田式との比較で感じたのと同じものであったのです!

  [Round2] これまでの差動アンプではこんな問題は感じなかったのに

  出力段に2SD970の定電流回路を入れたときの音は「富嶽差動化実験」で書いたようなもので、真空管アンプとして違和感を感じるものではありませんでした。位相反転段を定電流化して、音がガラっと変わったというのではありません。出力段を差動化した時の音の傾向が更に進んでいます。問題はそこに「石」アンプのテイストが乗ってきてしまったという事です。

  出力段だけなら問題がなくて、位相反転段を含めた場合に問題になるかというと、そうでは有りません。これまでの差動化の過程を振り返ってみますと、
  全段差動直結 KT88ppは2段アンプですが、どちらも定電流回路で差動になっています。
  前段差動 50CA10ppは、出力段だけの差動です。
  全段差動50CA10/300BコンパチPPでは、3段構成で総てに定電流回路が入っています。

  この段階では、今回のような「問題」は有りませんでした。

  [Round3] 定電流回路も真空管でないといけないのか

  定電流回路を比べてみると、出力段は総て2SD970を使った同じ回路です。
  初段は電圧差が取れないので、マイナス電源にしてCRDによる定電流回路です。この中で唯一3段構成になっている全段差動50CA10/300BコンパチPPでも、2段目は6922で電流が小さいのでCRDを使っています。

  うむ、定電圧3端子を使ったのはこれが初めてです。これが原因なのか? 素子で音がコロコロ変わる不節操な?「石」アンプが嫌になって真空管アンプの世界に入ったのに。忘れていた借金を今頃になって取り立てに来られたような気分です。

  1)スペースは厳しいが、位相反転段も2SD970のような、高hfeのトランジスターの定電流回路を入れる
  2)やって見ないと判らないが、大電流のCRDが無いなら、FETを自己バイアスで使ってCRD代わりに使う。
  をやって見れば、LM317が原因かどうか判りますが・・・

  黒川達夫氏は、差動アンプではない普通のプッシュプルアンプでも、位相反転段にはずっと真空管の定電流回路を入れてこられました。抵抗を使うよりも位相反転段の上下の出力差が少なくなる事を理由に挙げておられます。しかし、音質面の事も計算されての事ではなかったかと、いまにして思い至ります。現「富嶽」では不可能ですが、いつか真空管定電流回路にも挑戦して見たくなりました。


[Round4] 位相反転段も6922で差動にしてみたら  2000.7.15

  違和感のなかった50CA10全段差動では初段、2段目ともCRDを使用した定電流回路です。5687の特性を生かすには20m流せるCRDが必要ですが、普通見かけるのは5mA程度のものですし、何本も並列使用するわけには行きません。またCRDは回路としてはFETのGとDをショートさせたものなので、IDSSが充分大きなものにドレインに抵抗をいれれば自家製のCRDができます。しかしIDSSが20mA以上あるものはガリウム砒素FETのような特殊なもので、入手が難しそうです。
  それならばいっそ位相反転段を6922に変えてしまえばCRDが使えます。プレート電流は3〜4mAと5687の1/3程度なので負荷抵抗は約3倍の33Kにします。バイアスを-5Vとするとカソード電圧は125V。+B2を440Vとすると有効プレート電圧は315V。バイアス0Vとの交点35Vを差し引いて最大振幅は280V。5687を10Kの負荷で使った時は260Vなので、負荷抵抗が大きくなることを考えても遜色のないドライバー段になります。結局CRDを2本パラににして7.6mAの定電流としました。

  さて、その音は。

 予想はしていましたが、実にふくよかで、まろやかな音です。とろーりとろける雪○チーズです。50CA10全段差動と共通のキャラクターで、個人的には好みの音です。「石」のテイストの問題はどこかへ飛んでいってしまいました。
  しかし、高域の分解能「感」、切れ込み「感」、低域のしまり「感」は後退しました。「富嶽」では、これらのキャラクターは5678によって「演じられていた」ことが判ります。
  F特はフラットなのに、聴感上は最高域と最低域がカットされているかのように聞こえます。クラシックを長時間聴き続けるにはいい音ですが、オーディオとしては食い足りない面があります。

  この音の原因は6922にあるのか、それともCRDなのか。
  「富嶽」をこのままにしておくかどうか、非常に悩ましい選択です。


[Round5] 5687に戻して、CRDの定電流回路を入れたら

  位相反転段を5687に戻してCRDで差動にしてやれば、ふくよかで、まろやかな音と、高域の分解能があって、切れ込みの良いしまりのある音が「両立」するかもしれません。しかし、モノがありません・・・・・

  と、ここで、共立で15mAのCRDを発見しました。但し耐圧は25Vです。が、文句は言って居られません。何本か買って、実測してみると15mAも流れず11〜13mAという所でした。これなら2本パラにしてやれば丁度5687の共通カソード電流が処理できそうです。

  
  これが、変更後の回路です。赤で囲んだ中が変更点です。
  CRDの耐圧保護のために5.7Kの抵抗を入れています。317Mの時と同様に、5687に電流が流れ始めた直後は25Vを越える電圧が掛かっていますが、大丈夫の様です。下側の5687のプレート抵抗は13Kから上側と同じ10Kに戻してあります。

  ふくよかで、まろやかな音と、高域の分解能があって、切れ込みの良いしまりのある音の「両立」がうまく行っています。
  「富嶽」はあらゆる球を鳴らすというを目的に作りましたが、音もなかなかのモノで、しまりの良い分解能「感」のある音でMT管から送信管まで様々な球の音色を描き分けてくれました。6922と5687の組み合わせの前段と銘器タムラF2021の相性が偶々良かったのでしょう。パーツにこだわったのは本物ビタミンQのカップリングコンデンサーだけです(これを入れるとどんなに下手に作っても真空管アンプ「らしい」音を演出してくれます)。
  その「富嶽」が更に洗練され、一皮むけました。ピアノの高域キーをカーンと叩いた音があると、時には歪み感を伴った金属的な響きを感じ、1000Mのベリリウム振動板の限界かなと思うことがありました。それがどんな激しいタッチでも、余裕をもって倍音成分を響かせて呉れるようになりました。ハイハットやトライアングルは響きが美しくなると共に、録音レベルが小さい場合でも、透明感のある音でハッキリと他の楽器と分離して聞こえるようになりました。この余裕と、透明で滑らかで豊かな音を全域に渡って感じます。軽々とした低域、とろりとした中域で、オケや声楽の腕がワンランク上がったように聞こえます。

  出力段の差動化では特に違和感はなかったのに、音への影響がより少ないと思われた位相反転段が部品に敏感に反応しました。電流増幅では出力段が、電圧増幅では初段がメジャーなのに、どちらでもない位相反転段でこれ程の音の変動があるとは思っても見ませんでした。いい勉強になりました。
  これ以上望むならば、いよいよ真空管による定電流回路を試してみる他ないでしょう。それはまたいつの日か、前段だけで10本の真空管からなる「富嶽U」の出現の時まで・・・。  
Fine

[Round6] CRDにも音の違いがある  2000.7.21

  「富嶽」の差動化は一応終わりましたが、面白い事が分かりました。

  いたずらで、もう少し電流を増やして見たらどうなるだろうと、手元にあった3.5mAのCRDを加えてみました。すると、途端に音が濁ってきて、響きに深みが無くなりました。柔らかくはありますが、つまらない音です。元へ戻してみると、音も元へ戻ります。

  この公称15mAのCRDは、普通のものと違って耐圧が25Vしかありません。FETの規格表を見ると、Junctionタイプのものが定格として近い数字になっています。

2SK30 50V 6.5mA
2SK33 20V 20mA
2SK43 30V 14.5mA

  Junctionタイプのものは耐圧が50VT以下ですが、通常のCRDの耐圧は120Vあります。明らかに素材が違います。
  FETのゲート・ソースをショートさせて「ゼロバイアス」にしたものが定電流ダイオード=CRDですから、ソースに抵抗を入れて「バイアス」調整すれば任意の電流値を持つCRDを作ることができます。これまでのCRDの代わりにJunctionタイプのFETによる「自作CRD」を使えば、差動アンプの音に更なる進化を付け加える事ができるかもしれません。      
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