脱・差動  ヴィンテージ球アンプ


2003/12/30
2004/4/16 last updated
コンセプト


 PX25や50,250と言った球は持っていても出番があまり多くありません。値段を考えると不注意でエミッションゼロになるのが恐ろしいのです。トリタンじゃないから「ディスプレイ」にしても冴えないしね。
 でも「生き急ぎ」しないといけない年齢のことを思うと、いつまでもタンスの奥にしまいこんでしまうのも考え物です。ここは一丁「高価球」専用アンプを作ることにしました。

 巷を賑わせている差動アンプ。確かに出力を欲張らなければ、いい音が手軽に出てきます。しかしながら、何台も作っていると、どんな球も「差動の音」になってしまうのが気になり出します。どんなに美味しいソースを出されても、総ての料理が同じ味付けではたまりません。肉には肉の、刺身には刺身の味があります。同様に、球には球の「素の音」があると思います。これを活かしてやるために、ここは一番、「脱・差動」で行くことにします。

 初段はシングル、ドライバー段もムラード反転は差動の入り口ですから排除してやはりシングル、そして古い球にふさわしく位相反転はトランスで行います。いわゆるトランス結合でプッシュプルアンプを作ることにしました。
 また第2の試みとして、「富嶽」や「Big−one」のような重くて取り扱い難い大型アンプをつくるのは止して、モノを2台つくることにします。私にとってモノアンプは初めての試みです。途中で嫌になって、片チャンで終わることになるかも知れません。


  


とりあえずの回路



  シャーシは「富嶽 3号」よりさらに小さい鈴蘭堂のSL300を採用。300mmx200mmで、2台縦に並べても富嶽のSL20より小さいシャーシです。
  インターステージトランスは「Big-one MkW」でいい音だったソフトンのRC20。パーワートランスはノグチのPMC170M。容量からすればもう少し大きめの方が良いのですが、AC350Vと290Vというタップが丁度都合が良さそうなのです。ワンランク大きいPMC283を一次側95Vにしても使えますが、ヒーター電圧を降下させるための抵抗が必要になります。アウトプットトランスは6.6Kか8Kかさんざん悩んだ末に8KのタムラF685にしました。50のA級プッシュは450V-8KΩで12W。これはドンピシャです。PX25は400V-5KΩで15Wと500V-10KΩで20Wの2つのケースが挙げられています。450Vmaxなので中をとって8K?。300Bは350V-4KΩで20W。これは16Ωに8Ωをつないで見掛け4KΩとして使います。

  バイアスは固定バイアスとします。ここはμが大きくて必要電圧が比較的低くて済むPX25ではA2級になってしまうことも考慮して、定電圧をいれます。こうすればグリッド電流が流れてきてもバイアスが浅い方向にずれることはありません。善本さんのFETによるバッファー回路よりシンプルにできます。
 フィラメントはシングルでは音の良かった定電流点火を採用。プッシュなのでハムは打ち消し合い、直流化するだけで実用に成るはずですが、所定電圧が300Bが5V-1.2A、Px25が4V-2A、50は7.5V-1.25Aと皆違います。「富嶽」のような調整抵抗でなく、スマートにボリューム一つで調節完了といきます。

  7119のトランスドライブ段にも定電流回路が付いています。直結はカップリングコンデンデンサーが省けていいのですが、前後の球の動作は成り行きで決まってしまいます。ここを定電流にして動作を決めてやれば、前段の動作も負荷抵抗と電圧で決めていくことが出来ます。



製作

  穴あけが終わった状態と、大物部品を取り付けた状態です。
  初めて電源に「3ピン インレット」を使用しました。小さくて四角い穴の工作は面倒ですね。
  モノアンプの割には、中は詰まっています。

  50/300BのUX4pinは手前に刺し、UFのPX25は後方に刺します。黄色いツマミはバイアス調整です。OPTの後ろの放熱板はフィラメントの定電流回路用、ブロックコンデンサーとの間にある黒いツマミはフィラメント電圧調整用です。例によって、球交換時の調整は総て外から行います。

大きな端子板を使って中央に部品を集める予定でしたが、それ程纏まったスペースが取れなかった為、立てラグで分散配置してあります。
製作回路図

  基本構成は「とりあえずの回路」から変わっていませんが、定数は調整してあります。
[DF]
300B/50では6dBのNFをかけて丁度3、PX25では6でした。

[出力]
300B/50/PX25ともノンクリップで15W程度出ています。

[出力管の追加]
PMC170は、5V-3Aと6.3V-2.5V-3Aが2系統ずつあり、このクラスにしては豊富なヒーター巻線を持っています。
2.5Vと5Vを直列にして2系統ととし、電圧増幅の7119には別途6.3V-1Aの小型トランスを積んでいます。
  何故こんな面倒なことをしたかと言うと、6.3V-4Aで点火するスベトラーナの811シリーズを使って見たかったからです。
しかし実際に811-3を入れて見ると電圧降下が大きく、ショットキーバリアーダイオードによる片波整流でも5.2Vまでしか上がりません。PMC170のヒーター巻線の余裕は少ないようです。3.8+5Vに変更しました。その後トラブルを解決したこともあって(整流用のダイオードをシャーシに固定して放熱しているが、穴加工のバリがほんの少し残っていて、絶縁シートを貫通してダイオードとシャーシが接触していた)、定格の下限ギリギリの5.7V出るようになりました。


[グリッド回路の変更]
を下図のように、2SA1009を2SK2545に入れ替えました。
書き換えた下右図をみれば判るように、球のカソフォロをFETのソースフォロワーに置き換えた回路です。積極的にAB2動作をさせる積もりは無いのですが、宍戸式の定電圧回路ではバイアス調整時に電圧の応答が遅いこともあって、「不死鳥」や「New Big One」のシングルアンプで実績のあるこちらの回路に変更しました。


完成

  どうにか2台作ることができました。

  左右で若干色目に違いが有りますが、光線の関係ではなく実物でもこのような差があります。底板は片や光沢、片やつや消しともっと差が出ています。ロットの境目に当たってしまったようです。
PX25

  450V-50mA、16Ωの端子に8Ωの負荷をかけての見掛け4KΩです。バイアスは-36V
 バイアスが浅い分入力感度が高く、0.3Vで20Wの出力です。   
50

  450V-50mA、8KΩ負荷です。バイアスは-87V
 0.6Vで20Wの出力です。
 暗くすると、4本のうち2本はくっきりと青白色に発光しますし、他の2本もほのかな青白色の発光が見られます。非常に状態の良いペア2組です。   
300B

  440V-70mA、、16Ωの端子に8Ωの負荷をかけての見掛け4KΩです。バイアスは-93V。
 0.5Vで30Wの出力です。   
追加 SVETLANA811−3A

  只今、測定中です。  
245  オット忘れちゃいけない                2004/2/5 update

  ヴィンテージ球といば、この球も外すわけにはいきません。
  シングルの最大出力時の条件が、275V-36mA−2Wですので、プレート耐圧は275V、プレート損失は10Wのようです。450Vは懸けられませんので、+Bの平滑用に入れている2SK2455のゲートを低い電圧に抑えられるよう改良しました。ドレインとアース間に20KΩ+300KΩの抵抗を入れて+B電圧を決めていますが、これを40KΩ+110KΩ+300KΩとし、PX25等は40Kと110Kの間から、245の場合は110Kと300Kの間からゲートへ電圧を渡すようにしました。抵抗はスイッチ(SW2)で切り替ます。100V以上下げているので発熱が大きいですが、245の場合は1本当たりのプレート電流が30〜36mAなので、なんとかというところです。

  275V-36mAの条件で、出力は0.4Vで7W。AB1級の動作。まずまずといった所です。

  音は、直熱管特有の音離れの良さが感じられます。すっきりと纏まった音質のため、PX25や50のようなヴィンテージ管としての「トロ味」は感じられません。茄子管にも拘わらず、現代的な感覚の音です。     


試聴

ROUND1 全段差動 VS RCA50pp                       2004/1/26

 比較の対象にまるで駄目なモノをを持ってきても意味有りません。「富嶽3号」をブラッシュアップして、全段差動としました。「独立型差動」の時より「トロ味」が濃くなって再登場です。6550のプッシュで0.5Vの入力で17.4Wの出力です。

「ピアノ」

ブラームス
ハイドンの主題による変奏曲
(2台のピアノ版)

   マルタ・アルゲリッチ
アレクサンドル・ラビノヴィチ

   ワーナーミュージックジャパン
 WPCS21231

  90年代の比較的新しい録音なので音に透明感がある。

 富嶽3号改は艶のある音を出しているが、ピアノのスケール感が出ない。音がペラペラしている。
 その不満が50では解消されており、透明感と重量感を共存させている。直熱管の音離れの良さがこういう結果を導き出しているのだろうか。

「チェンバロ」

クープラン
「恋の夜鳴きうぐいす」
クラヴサン名曲集

  オリバー・ボーモン

   ワーナーミュージックジャパン
 WPCS21224

 このCDで差が出るとは予想していなかった。

 どちらも高音が滑らかだし、楽器の胴鳴りの音も良く出てくる。両方とも楽しめる音だ。 しかし、50のほうが音の重心が低い。音に芯があって楽器の存在感がよりリアルです。  

「オーケストラ」

リムスキー・コルサコフ
交響組曲「シェラザード」

  チョン・ミュンフン
パリ・バスティーユ管弦楽団

ポリドール
 POCG1712

 柔らかく繊細な弦楽器群をバックに、独奏バイオリンがシェラザードのテーマを嫋々と奏でる。実に官能的なシェラザードです。

 富嶽3号改では、音の柔らかさを保ちつつも音の輪郭がハッキリと出てくる。細い線で輪郭が描かれる日本画のような表現になる。
 50では、輪郭ではなく音色の厚みで各楽器の存在を浮かび上がらす。どちらが良いかというより、好みの問題になると思う。
 小型のシステムなら富嶽3号改の方が細密な音に聞こえ、大型のシステムの場合は50の方が迫力があり、富嶽3号改は薄っぺらな音にきこえるかも知れない。  

「声楽」

愛のよろこび

  ソプラノ 鮫島有美子
ピアノ ヘルムート・ドイチェ

   デンオン
 33C37-7444

 シューベルトの「ます」も日本人が唱っていると、どことなく親近感が湧いてくるから不思議です。

 富嶽3号改の方は子音がハッキリ浮き出てくるような声に聞こえますが、50では母音が延びていくほうに意識が傾きます。より肉感的といったら良いのでしょうか。
 それぞれの音の特徴は、「ピアノ」や「オーケストラ」を聴いた時に感じたのと同じ傾向があると思いました。




ROUND2  全段差動  VS SOVTEK 300B                       2004/2/7

「オーケストラ」

ワグナー
管弦楽曲集

  ダニエル・バレンボイム
シカゴ交響楽団

ワーナーミュージックジャパン
 WPCS21211

 指揮者バレンボイムを見直したCDです。ショルティ時代の剛直路線からハンドルを切り、華麗で柔軟なオケに変身させています。第一曲目の「さまよえるオランダ人序曲」には、その特徴が良く出ています。

 SOVTEK 300Bでは、直熱管らしく繊細な高域が耳に心地よく響きます。この繊細感が全音域に出てきます。そのため、オケがくっと盛り上がる所では、低域の弦の厚さが不足して軽すぎる音になってしまいます。
 富嶽3号改では、高域は繊細さより差動特有の柔らかさが目立ちますが、これは良し悪しというより好みの問題でしょう。一方低域では、ワグナーらしい分厚さをよく表現できており、差動アンプに軍配が上がります。ここは富嶽3号改の優勢勝ちというところです。  

「ピアノ」

ブラームス
ハイドンの主題による変奏曲
(2台のピアノ版)

   マルタ・アルゲリッチ
アレクサンドル・ラビノヴィチ

   ワーナーミュージックジャパン
 WPCS21231

  ピアノもオーケストラと同じ傾向かと思いましたが、ここはSOVTEK 300Bが頑張りました。音のキレの良さが低域の薄さを補ってダイナミックな演奏を聴かせてくれました。
  富嶽3号改とは五分五分の勝負です

「チェンバロ」

クープラン
「恋の夜鳴きうぐいす」
クラヴサン名曲集

  オリバー・ボーモン

   ワーナーミュージックジャパン
 WPCS21224

 こういう音楽は、傍熱管がいくら頑張ってもダメですね。直熱管とは勝負になりません。 

「声楽」

愛のよろこび

  ソプラノ 鮫島有美子
ピアノ ヘルムート・ドイチェ

   デンオン
 33C37-7444

 これも、ROUND1と同じ傾向が見られました。



以下工事中


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