「富嶽 3号」


2003/12/13
2004/1/23updated
その1  コンセプト


 手元にOPTが2セット、ラックスキットから外したOY15-5とソフトンのRW-20。後者は 善本式RコアOPT パラシングル・ユニバーサルアンプ で一旦採用したモノの、力量不足でした。また購入した球の中にはプレート電圧が低くて使いこなせていない球も数多くあります。このままではいつまで経っても日の目を見ることのないベンチウォーマーです。
  何とかならぬか。「ベンチ」を見渡すと、昔々、何も判らずに注文してしまったTr用のPTが有ります。45V-2Aで2巻線、タップは40Vと35V。市販で最大のノグチのPMC500を使っても100mA/本までトータル400mA止まりですが、これを倍電圧整流すると600mAの出力が得られます。ヒーターは別トランスで賄えば一台組み上げることができます。「富嶽支援戦闘機」として「富嶽 3号」の構想が浮かび上がってきました。

 メンバーの特徴からして、全段差動低電圧大電流アンプ。OPTはLUXのOY15-5を採用。最大重畳電流は250mA*2あります(但し、アンバランスは1.9mAと厳しいですが)。出力段の差動にはアンバランスの限界が厳しいのと、大電流であるため各球別に定電流動作させます。前段はプレート電圧が低いので6922SRPP一段でいけるという見通しです。定電流回路はLM317を使って簡略化してしまいます

  実は250mA*2は誤りで、2本で250mAでした。

その2 試作 1号




  シャーシは富嶽より一回り小さい鈴蘭堂のSL10Sを採用。370mmx250mmでゆったりした配置です。無理すればSL8も可能でしょう。OY15-5は熱々になるようであればタムラF783に換えられるよう端子部の穴は45mm径と大きめに取ってあります。
  ヒータートランスはニノミヤの5階にありました。6.3V-10A。\5100はちょっと高い気もしますが、地の利の悪さでやむを得ません。





  回路図と、内部の様子です。

  電圧増幅段は下側が6AQ8、上側が6922の異種球SRPPです。増幅度から6922と同じピン配置の6AQ8は に変えました。

  ヒーターとアースのは未配線ですが、富嶽1,2号と違って中はがらんどう。 こんなんでチャント音が出るのだろうか、少し心配になるくらいです


  ここで大きな問題が・・・

その3 試作 2号

  シャーシ正面の4つのツマミは各出力管の電流量を決めるボリューム用です。また各管の右にある青色のテストポイントは回路図ではTP2,TP4で表されているカソード電圧測定、白色のテストポイントはTP1,TP3で表されている、1Ωの抵抗にかかる電圧を測定してプレート電流を測定するためのものです。

  ところがここにきて雲行きが怪しくなってきました。トランスの銅損による電圧低下が予想より大きく、 思ったより出力が取れなさそうです。

  容量が大きければ線も太く電圧降下が少ないだろうと、これも万年ベンチウォーマーの300VAの絶縁トランスを採用しました。

JJの6L6GBを付けて記念撮影。

音がおかしい
  一応の音は出ていますが、何となく平板な感じです。 の「差動アンプの音」でも書きましたように、差動回路にLM317を使った時とCRDとでは音が違います。 LM317では音に「金け」を感じるのです。朝令暮改ですが、2SD970を使った定電流回路に変更しました。

   その差は歴然!!!  低域の重量感、音場の奥行き感で圧倒的に2SD970の勝ちです。差動回路に三端子レギュレータはいけません。内部ダーリントンのTr等でディスクリートな回路を組むべきです


その4 試作3号
  使っているうちにトランスの唸りは減ってきましたが、そこは汎用トランス、曲の切れ目ではしっかりと唸りが聞こえてしまいます。どうせ作るなら、常用出来るモノにしよう。プレート電流600mAを安定して取り出せるトランスをフェニックスへ発注しました。「制式採用」という訳です。タップは260V〜180V、20V刻み、プラス0と10V。容量はAC1.1A。

  差動の出力はプレート電流に依存します。多極管の5結で出力が大きくなると、プレート電流も第2グリッド電流も増えます。一方差動では、実際にはプレートでなくてカソードに定電流回路を組み込んでありますから、この電流は増加出来ません。更に第2グリッド電流が増加してくると、プレート電流の分を食ってしまい尚更出力が低下します。富嶽3号ではULにしてきましたが、3結よりは第2グリッド電流が流れやすくなります。ダンピングファクターの御利益を考え会わすと、3結にしてプレート電流の低下を防いだほうが得です。

  電圧増幅段も、AC260V使用時に深くなるバイアスあるいは5889、6336、6C19等の純三極管への対応を考慮して二段増幅に変更しました。初代「富嶽」で実績のあるの6922と5687のコンビを投入しました。

その5 試作4号

  まだ高域に緊張感が有り、差動の霊験あらたかという訳ではありません。電圧増幅段の選択は間違いないはずです。するとこれはOPTのキャラクターと考えざるを得ません。
  最近出番が減った3段差動全段直結アンプからTAMURAのF683を強制収用し、OY15-5と交換しました。

  6922の初段のプレート電流を15mA→10mA/2本、5687を18mA→10mAに下げる等の調整を行い、ようやく差動アンプの本領を発揮し出しました。


その6 富嶽 3号離陸  

   ところが、まだトラブルがありました。出力テストのため発振器の出力を上げていくと、最大出力付近で急激にカソード電圧が下がってしまい、定電流性を保てなくなってしまいます。ぺるけさんの掲示板で「気絶現象」ではないかとご指摘頂きました。話には聞いていましたが、まさか自分のアンプで起こるなんて思っても見ませんでした。NFを大きく取ってゲインを下げる処理をすると音が変化してしまいます。ここはカソフォロで直結にして逃れることにしました。幸いニノミヤ無線に24V*2−0.2Aというシャーシ内に収めてられる小型のトランスがあり、倍電圧整流して-100Vのマイナス電源としました。+B、-B、ヒーターと3つの専用トランスを持ったアンプとなりました。行き当たりばったりでアンプを作るとこういう目に遭います。

  6922と5678は残して、それぞれ初段とカソフォロ段とし、間にドライバー段として12AU7を入れました。この12AU7は、外へ出すとバランスが悪くなるのでご覧のように2本のポールでシャーシ内側のサイドにとりつけました。
  音は6922-5687コンビよりキレはやや後退し、円やかなコクが出てきました。


  12AU7の共通カソードは電流値からすれば定電流ダイオードで充分なのですが、電圧が高いのと、電源トランスのタップを切り替えて電圧を変えられる仕様になっているため、抵抗で嵩上げするという手も使えません。大げさですがディスクリートで組みました。

  カソフォロのグリッドを-8Vに引いているのは、5687のカソード電圧が約8Vあり、その分出力球の+B電圧が有効に使われなくなるのを防ぐため、またカソード定電流回路に無用の負担をかけてよけいな放熱を防ぐためです。

  カソフォロ電流はこれまでの富嶽シリーズに比べて少ないですが、このアンプでは送信管をグリッド電流を常時流しながらプラスドライブで駆動するような使い方をしません。受信管が少しプラス領域に入るような使い方ではこれで充分です。

  各段に定電圧回路を設けず、+Bの大元でFETによる平滑回路を組んでいます。

  マイナス電源は24V*2、0.2Aの小型トランスをシャーシ内に入れています。ここもベース電圧をツェナーで固定すべきところですが、抵抗で分圧して間に合わせています。  


追記 2003.12.22

  出力段の差動を、1本づつ別々の定電流回路で行い、交流だけバイパス独立型差動アンプを作りましたが、こびりいて離れない疑念がありました。
それは、「本当に差動の音が出ているのか」でした。

ようやく新しいアンプの音にも慣れてきたので、実験をしました。
1)何ら手を加えず
2)2球のカソードを100Ωの抵抗で結ぶ。(回路図のTP2とTP4の間です)
3)100Ωの抵抗をショートさせる。

3)が通常の差動の状態です。
2)は、直接ショートすることで定電流回路の動作が不安定になり、その音で判断していまう危険性を排除したかったので付け加えました。
テストはゲンゲローヴの「ラロ/スペイン交響曲」で行いました。彼のバイオリンの倍音を繰り返し聞くことで判断しました。

結果は、ブラインドテストでは絶対区別がつかない程度の差(即ち、気のせいと言うこともおおいにある)で2)−3)−1)でした。 なぜ3)より2)が良かったのか不明ですが、この程度の差であれば独立型差動も充分差動の音がするという結論に達し、両カソード間に直流のバイパスを設けないことにしました。

追記 2003.12.29

  カソフォロのグリッドをマイナスに引く値を-8Vと-40Vとを選べるようにしました。5998や6336Bのようなバイアスの深い三極管を使ったときに、カソードの電圧を下げて定電流回路の発熱を押さえる為です。

  +B電源のRCコアトランスのヒーター巻線を使用してヒーター電源を2つにしました。RCコアトランスのヒーター巻線(6.3V-2A)からは電圧増幅段とカソフォロのヒーター電源、および初段の定電流ダイオードの-8Vの電源をとりました。ヒータートランスの巻線は出力管専用とした上で、外部電源とこの巻線を切り替えるスイッチを追加しました。外部電源からは定電流で直流点火し、オクタルの直熱管(1619、HY65、6B4G)も使えるようになりました。ソケットの2、7番ピンにはそれぞれ16Ωの抵抗を付けてカソードと繋いでいます。


その6 富嶽 3号改
                                           2004/1/23
  
     一応完成した「独立型差動」アンプでありましたが、PX25や50を鳴らす「ビンテージ球アンプ」との比較になりますと、やっぱり苦しいです。「天然ものトロ」の音と張り合うにはまだ「赤身」が勝ちすぎます。「人工トロ」もとことん行こう。カソードを共通にして定電流回路に入る「純正」に戻すことにしました。しかし、2本の出力管の電流差を調整出来るという機能は、残しておきたい。真空管の供給状態を考えると、多少特性が違っていてもアンバランス電流を無くし、ペアとして使える機能はそれなりに意味があると思います。
  


  いろいろ考えた末、カソフォロ段の5687のバイアスを調整する回路を付けることにしました。10Kのボリュームをカソード抵抗の先につけました。この両端は33Kの抵抗で接地してあります。これにカソード電圧低減用のマイナスバイアスを繋いで、5687の2つのユニットを異なるバイアスに調整できるようにしています。「独立型差動」と違って差動の暴走(三結でバイアスが深いので可能性は非常に小さいですが)を押さえられるほど強力ではありませんが、アンバランス電流は成り行き任せという状態は解消できます。プレート電流は、1Ωの抵抗の両端電圧を、TP1-TP2およびTP1-TP4間の電圧を測定して調整します。

 6550で聴いてみましたが、以前より「トロ味」が濃くなってきました。
  このアンプはプレート電圧や電流を大きく変化させられるので、差動アンプ出力の特性をとってみました。出力は波形をオシロで観測し、出力電圧のピークトゥピークから計算によって求めています。球は42Wのプレート損失がある6550を使いました。最大出力は、それ以上入力を上げてもピークハイトに変化がなくなる点を取っています。

  まず、プレート電圧VS出力です。

  1本当たりのプレート電流100mAの時、各電圧における最大出力は、
  250V(実効プレート電圧240V)-9.6W
  280V(実効プレート電圧263V)-12.1W
  300V(実効プレート電圧285V)-15.3W
  325V(実効プレート電圧308V)-17.4W
 となっており、通常のプッシュプルアンプのようにプレート電圧に依存しているのがわかります。また同一入力時の出力は、入力0.1V〜0.2Vのところで顕著に見られますが、電圧が低いケースの方が高く出る傾向があります(凡例は必ずしもプレート電圧順になっていないのでご注意下さい)。
  その差は出力の増加に従って少なくなり、最大出力付近ではプレート電圧の低いケースではクリップが起こってピークハイトが頭打ちになります。
 
  次は、プレート電圧を一定にしてプレート電流を変化させた場合の出力特性です。

  プレート電圧280Vで、プレート電流を60mA、100mA、140mAと変化させました。実効プレート電圧は、それぞれ265V、263V、261Vと大きな変化はありません。

  プレート電流を変化させても出力は変わりません。むしろ60mAのデータに見られるように、電流が小さい方が最大出力付近でのクリップが起こり難く、若干ですが最大出力が伸びています。
  このことは他の電圧でも同じように観察されました。

   


以下工事中


home

















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送